認知症予防:科学的根拠から学ぶべきこと✉️115✉️
しかし、これらを現実の世界でどれだけ実践すれば、実際にどれほどの効果が得られるのかという点については、今なお明確な答えが出ていません。世界中で認知症患者の爆発的な増加が予測される中、世界保健機関(WHO)は近く新たな認知症リスク低減ガイドラインを公開するそうです。
今回は、認知症リスクを低下させるライフスタイルについて考えてみたいと思います。

個人と統計のギャップ
認知症(その大半を占めるのがアルツハイマー病です)の患者数は、世界疾病負荷(GBD)研究のデータによると、2019年の5,700万人から2050年には1億5,300万人にまで急増すると予測されています。特に発展途上国での増加が顕著であり、平均寿命の伸びがその背景にあります。
こうした危機のなかで、認知症リスクに関する最も包括的な指針とされているのが、国際的な医学誌The Lancetが組織した専門家委員会(ランセット委員会)の報告書です。同委員会が発表した2024年版の報告書では、年齢や遺伝とは異なり「管理・修正が可能な14の認知症リスク要因」が挙げられています。
具体的には、運動不足、高血圧、肥満、糖尿病、喫煙、うつ病、頭部外傷、大気汚染、教育水準の低さ、社会的孤立、難聴、未治療の視力障害、悪玉(LDL)コレステロールの高値、そして過度の飲酒(週にワイン2本以上)です。
同委員会は、これら14の要因をすべて排除できれば、理論上、世界全体の認知症発症の45%を予防できるという試算を示しました。
しかし、この「45%」という数字を個人のレベルにそのまま当てはめることはできません。これはあくまで人口統計学的な観察に基づいた計算上の数値であり、一人の個人がこれらをすべて実行したからといって、自身の認知症リスクが45%減るわけではないのです。さらに、運動不足や飲酒といった習慣は数十年にわたり蓄積されるものであり、中年期以降に慌てて生活習慣を改めたところで、それまでに生じた脳へのダメージをどこまで帳消しにできるかは定かではありません。
ランセット委員会の報告書のポイント
1. 認知症の新たな2つの修正可能なリスク要因
2020年のランセット委員会で特定された12のリスク要因(教育不足、頭部外傷、運動不足、喫煙、過度の飲酒、高血圧、肥満、糖尿病、難聴、うつ病、社会的孤立、大気汚染)に加えて、新たに「視力低下」と「高コレステロール」の2つが修正可能なリスク要因として追加されました。これら計14のリスク要因を改善・修正することで、認知症症例のほぼ半分(約5割)を予防または遅らせることができる可能性があります。
2. 予防に対する野心的なアプローチ
生涯を通じた対策: 認知症リスクを減らす行動は人生の早い段階から始め、生涯を通じて継続すべきです。また、リスクは個人のなかに蓄積・密集するため、複数の要素を組み合わせた介入(マルチコンポーネント介入)が必要です。
遺伝的要因に関わらず有効: この介入は、APOE遺伝子リスクの有無にかかわらず有効です。
政策と公平性: 予防には国家・国際レベルでの政策変更と、個人に合わせた介入の両方が必要です。特に高リスクグループを網羅し、公平性を重視した政策が求められます。
3. 生涯を通じて認知症リスクを減らすための具体的行動
14のリスク要因に対し、以下の具体的な行動を推奨します。
教育・認知刺激: すべての人に質の高い教育を保証し、中年期には認知機能を保護するための刺激的な活動を推奨する。
聴覚ケア: 難聴者への補聴器の普及と、有害な騒音への曝露を減らす。
うつ病: 効果的な治療を行う。
頭部保護: コンタクトスポーツや自転車でのヘルメット・頭部保護具の着用を推奨する。
運動: 認知症発症リスクを下げるため、スポーツや運動への参加を促す。
喫煙: 教育、価格統制、公共の場での禁煙化、および禁煙指導へのアクセス向上により喫煙を減らす。
高血圧: 40歳以降、収縮期血圧を130 mmHg以下に維持し、高血圧を予防・改善する。
コレステロール: 中年期からの高LDLコレステロールの発見と治療を行う。
肥満・糖尿病: 健康的な体重を維持し、できるだけ早く肥満を治療する(糖尿病予防にも繋がる)。
飲酒: 価格統制や過度な飲酒のリスクへの意識向上を通じて、大量飲酒を減らす。
社会的孤立: 高齢者に優しい地域環境や住まいの整備、活動への参加や他者との同居を促進し、孤立を減らす。
視力: すべての人が視力低下のスクリーニング(検査)と治療を受けられるようにする。
大気汚染: 大気汚染への曝露を減らす。
