タケノコ、白菜、ステムレタス――中国の連続食品告発問題を知る✉️136✉️

2026年の夏から秋にかけて、中国発の食の安全をめぐるニュースが相次いで報道され、日本にも伝えられています。硫黄の煙でいぶされたタケノコ、ホルムアルデヒドを含む液体に浸された白菜、そして食用色素で着色されたステムレタス。こうしたニュースを見て、「中国の食品は危険だ」「だから中国産の食品は買わない」と受け止めることは簡単です。しかし、それだけでは問題の本質は見えてきません。
山形方人 2026.09.28
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食卓に並ぶ食品の安全性は、私たちが普段ほとんど意識することのない「見えないインフラ」です。毎日安心して食事ができるのは、食品の生産から加工、流通、販売に至るまで、さまざまな仕組みが働いているからです。だからこそ、食品の見た目をよくする、鮮度を保つ、腐敗を防ぐといった目的で、本来その食品への使用が想定されていない化学物質が使われていたと知ると、大きな不安を感じるのではないでしょうか。

2026年の夏から秋にかけて、中国ではまさにそうした食の安全をめぐるニュースが相次ぎました。SNSで拡散された映像や情報をきっかけに問題が発覚し、当局が調査や捜査に乗り出すケースも続いています。

これらのニュースを見て、「中国の食品は危険だ」「だから中国産の食品は買わない」と受け止めることは、決して難しくありません。しかし、それだけでは問題の本質は見えてきません。科学的に見て、どのようなリスクがあるのでしょうか。なぜ、このような行為が起きるのでしょうか。食品の生産や流通のどこに、リスクが潜んでいるのでしょうか。そして私たちは、こうしたニュースをどのように受け止め、日々の食生活に向き合っていけばよいのでしょうか。

硫黄で燻蒸したタケノコ

その発端は、広東省清遠市の山あいにある簡易施設で撮影された一本の動画でした。

投稿したのは「漁猟斉哥」という人気配信者で、新鮮なタケノコを硫黄で燻蒸する様子をそのまま記録していました。広東省清遠市は中国有数のタケノコ産地であり、全国生産の大きな割合を占めるとされる土地です。当局は動画公開からほどなく内容を事実と認め、原料と製品を押収し、流通経路の追跡と関係者への聴取に着手しました。警察も動いています。

なぜ硫黄なのかといえば、白い見た目を保つ漂白効果と、殺虫・殺菌、そして長期保存を同時に実現できるからです。硫黄は、加熱・燃焼させることで二酸化硫黄を発生させます。このガスが生物の表面や内部に浸透することで作用します。通常の加工よりも短時間かつ低コストで済むため、採算を優先した現場判断として広がっていたとみられます。告発側の検査によれば、二酸化硫黄の残留量は1キログラムあたり4860ミリグラムにのぼり、安全基準の数十倍、場合によっては100倍に達するとも報道されています。

高濃度の二酸化硫黄や亜硫酸塩を摂取すると、胃を刺激し、吐き気、腹痛、嘔吐などの消化器症状を引き起こすことがあります。二酸化硫黄に特に敏感な体質を持つ人、なかでも一部の気管支喘息患者では、ごく少量の曝露でも気道が収縮し、呼吸困難や喘息発作などを起こすことがあります。また、亜硫酸塩には還元作用があり、ビタミンB1(チアミン)を分解することが知られています。そのため、長期にわたって大量に摂取した場合には、ビタミンB1の利用に影響を及ぼす可能性があります。さらに、食品用途として認められていない低品質な工業用硫黄を燻蒸に使用した場合には、不純物として鉛、ヒ素、カドミウムなどの有害な重金属が含まれている可能性があります。このような硫黄を食品に使用すれば、重金属による二次的な健康被害につながるおそれがあります。

中国の国家基準では、硫黄燻蒸そのものは乾燥野菜や果物乾などに限って認められている技術であり、生鮮野菜への使用は想定されていません。乾燥タケノコの残留上限がおおむね200ミリグラム程度とされることを踏まえると、報じられている数値が事実であれば大幅な超過ということになります。

日本でも中国産タケノコは広く流通しているため、輸入時のモニタリング検査対象として扱われています。

ホルムアルデヒドに晒した白菜

次の事例は、8月に河北省張家口市で発覚した白菜です。収穫した白菜を輸送中の鮮度保持を目的にホルムアルデヒド溶液に浸していた現場が告発されました。

地元当局はこれを事実と認め、違法行為と位置づけています。発覚後、地元の白菜買い取り価格は従来の5分の1程度まで急落し、農家側が大きな打撃を受けたと伝えられています。中央の食品安全部門も厳罰方針を打ち出しました。なお日本政府は、当該白菜の日本向け輸出は確認されていないとしています。

ホルムアルデヒドは、タンパク質などの分子と反応して架橋構造を形成し、タンパク質を固定・変性させる性質があります。この性質を利用して、細菌などの微生物の増殖を抑えたり、植物組織の細胞構造を固定したりすることができます。バイオ系の方なら、組織や細胞の固定に使う「ホルマリン」としてお馴染みだと思います。

ホルムアルデヒドは住宅の建材や家具などに使われる接着剤から放出されることがあり、シックハウス症候群の原因となる代表的な揮発性有機化合物(VOC)の一つです。吸入すると目や鼻、喉などの粘膜を強く刺激するほか、長期的な曝露については、上咽頭がんなどの発がんとの関連が認められています。また、白血病との関連についても研究が蓄積されており、特に職業的な高濃度曝露との関連が指摘されています。ホルムアルデヒドを経口摂取した場合には、消化管の粘膜を強く刺激し、口内炎、食道炎、激しい胃痛、胃粘膜の損傷などを引き起こす可能性があります。高濃度では腐食性による重篤な消化管障害を起こすこともあります。さらに、ホルムアルデヒドは皮膚や気道への刺激性を持ち、皮膚への接触によって接触皮膚炎を引き起こすことがあります。

したがって、ホルムアルデヒドは「微量なら安全」という単純な物質ではなく、濃度や曝露経路、曝露期間によって健康への影響が大きく異なる物質として扱う必要があります。

ステムレタスの着色

さらに、9月初旬に甘粛省蘭州市などで表面化したのが、ステムレタスの着色問題です。

日本では乾燥したものが山くらげとも呼ばれるこの野菜を、青と黄の食用色素を混ぜた緑色の液体に浸すことで、黄ばみや傷を隠し新鮮に見せかけていたというものです。生鮮野菜への着色そのものが禁止行為にあたります。当局は53カ所を点検し、6業者を摘発、問題の茎レタスは廃棄されました。こちらも発端はSNSでした。韓国では国内流通品から色素は検出されなかったと発表されています。

構造的な問題

タケノコ、白菜、ステムレタスという3つの事案を並べてみると、共通する要素が浮かび上がってきます。見た目や保存性を優先するあまり現場で違法な処理が行われていたこと、SNSでの拡散が発覚の引き金になっていること、そして当局が動画の内容を事実と認めて押収や捜査に入るという一連の流れです。

こうした食品安全問題は、中国において今に始まったものではありません。記憶に新しいところでは、2008年のメラミン混入粉ミルク事件があります。タンパク質含有量を偽装する目的でメラミンが添加され、乳幼児およそ30万人が腎臓結石などの被害を受け、少なくとも6人が死亡したとされる事件でした。

また、下水道や廃食油、残飯から回収・精製した油を食用油として再流通させる問題も2010年前後に大きく取り沙汰されました。このほかにも、着色料であるスーダンレッドの混入、塩酸クレンブテロールを含んだ豚肉、農薬残留、重金属に汚染された米など、似たような構図の問題が繰り返し表面化しています。

背景として指摘されるのは、生産から消費までの流通チェーンの長さ、見た目・保存性・コストを重視しがちな現場のインセンティブや倫理観、地方ごとに濃淡のある監督体制、そして利益追求が安全性より優先されやすい構造です。

もちろん改善が進んでいないわけではありません。2009年に食品安全法が施行されて以降、基準整備や抜き打ち検査、ネット告発への対応は着実に強化されてきましたし、2025年には食品安全法自体が改正され、同年の全国における食品安全関連の摘発件数は数十万件規模にのぼるという公式発表もあります。

硫黄燻蒸という技術自体は、乾燥食品や一部の伝統的加工では正式に認められているものです。問題視されているのはあくまで「新鮮野菜への無断使用」と「残留濃度の大幅な超過」であり、過去にも唐辛子、八角などで同様の摘発例が報告されています。つまり、技術そのものの是非というより、現場での逸脱をどう抑え込むかという運用面の課題が繰り返し露呈している、と捉えるのが実態に近いのではないかと思います。

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  • 日本の食卓との距離感

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