受精卵の「遺伝子検査」で、人は何を選ぶのか✉️137✉️
体外受精の技術が進歩し、受精卵の遺伝情報を調べられるようになってきました。たとえば、体外で卵子と精子を受精させ、いくつかの受精卵ができたとします。その中から、将来、特定の遺伝性の病気になる可能性が低いものを選んで子宮に戻す、ということが行われています。
これまでは、主に「この遺伝子に異常があると、重い病気になる」とはっきり分かっている遺伝性疾患が対象でした。ところが、遺伝子を調べる技術が進むにつれて、事情が変わり始めています。
たとえば、心臓病や糖尿病のような病気は、ひとつの遺伝子だけで決まるわけではありません。数多くの遺伝子と、食生活や運動、生活環境などが複雑に組み合わさって発症します。
最近では、こうした「たくさんの遺伝子が少しずつ関係する特徴」についても、将来の発症リスクをある程度予測しようとする研究が進んでいます。
さらに、その先には、知能、身長、性格、行動傾向といったものまで遺伝情報から推測しようとする動きがあります。
ここで、非常に難しい問題が生まれます。「病気になる可能性が低い受精卵を選ぶ」のは医療なのでしょうか。では、「将来、学習面で困る可能性が低い受精卵を選ぶ」のはどうでしょうか。「特定の行動傾向を持つ可能性が低い受精卵」を選ぶのはどうでしょうか。この境界線は、本当に明確なのでしょうか。

「病気を避ける」のはよくて、「特性を選ぶ」のはいけない?
これまで、生殖医療をめぐる倫理的な議論では、比較的シンプルな線引きが使われてきました。「病気を避けるためなら認められる。しかし、知能や性格、外見などを選ぶのは慎重であるべきだ」という考え方です。
たとえば、将来、重い遺伝性疾患になることが分かっている受精卵と、そうではない受精卵があれば、病気になる可能性が低いほうを選びたいと考える親は少なくないでしょう。
これは、「子どもができるだけ健康に生きられるようにしたい」という願いだからです。一方で、「こちらの受精卵のほうがIQが高くなりそうだから選ぶ」「こちらのほうが背が高くなりそうだから選ぶ」「こちらのほうが特定の性格になりにくそうだから選ぶ」となると、話は変わってきます。
そこには、「どんな人間が望ましいのか」という価値判断が入り込むからです。
こうした選択が広がれば、かつての優生学のように、「社会にとって望ましい人間」を増やそうとする方向へ進んでしまうのではないか。あるいは、特定の特徴を持つ人々に対する偏見や差別を強めてしまうのではないか。
そのため、これまでの倫理や規制では、「医療」と「非医療」を分けることが重要だと考えられてきました。
ところが、8月26日にNature Human Behaviour誌で発表された国際研究は、この考え方に大きな疑問を投げかけました。研究から見えてきたのは、「人々は、医療か非医療かという分類だけで受精卵を選んでいるわけではない」ということです。
「自分の子どもだったら?」で判断が変わる
研究チームは、米国と中国の成人を対象に調査を行いました。まず、「あなたは受精卵について、こうした遺伝的な情報を調べたいですか?」と質問しました。調べたのは、心臓病や視覚障害といった医療に関係するものだけではありません。「低いIQになる可能性」や「反社会的な行動傾向」といった、いわゆる「非医療的」な特徴についても尋ねました。
米国の1467人を対象にした調査では、心臓病について検査したいと答えた人が78.6%でした。視覚障害は54.8%です。一方、低IQについては65.0%、反社会的行動については57.8%でした。全体としては、やはり「病気について知りたい」という人のほうが多いように見えます。
しかし、ここで少し不思議な結果があります。視覚障害という明らかな医療的問題よりも、「低IQになる可能性を知りたい」という人のほうが多かったのです。これは、単純に「病気だから調べたい」「病気ではないから調べたくない」という話ではありません。
人々はおそらく、「その特徴を持つことで、子どもが将来どれくらい苦労するのだろう?」という感覚でも判断しているのです。
そして、研究でもっと興味深かったのは、その次の実験でした。
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- 「病気かどうか」より「人生にどれくらい影響するか」
- 中国でも同じ傾向が見られた
- 「デザイナーベビー」は本当に突然現れるのか
- 「医療/非医療」だけでは決められない時代へ
- 最後に問われるのは、「どんな人間を望むのか」
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