「なでる」だけでヒヨコは幸せを感じるか?✉️87✉️

これまで、家畜に対する人間の関わりは「ストレスを減らす」ことに主眼が置かれてきました。乱暴な扱いを避ける、恐怖を与えない、健康を損なわない——いずれも重要ですが、いわば「マイナスを減らす」発想です。ではその先に、「積極的に幸福を与える」ことは可能なのでしょうか。
山形方人 2026.04.09
読者限定

英国ブリストル大学の研究チームが、3月30日付けのAnimal Welfare誌に掲載した研究のテーマは一見すると素朴です。「ヒヨコは人間になでられると嬉しいのか」。研究は、この問いに対して、初めて明確な科学的手がかりを提示したと言えます。

ただ「なでる」という行為。人間にとっては当たり前のスキンシップが、異なる種であるヒヨコの内面にどのような影響を与えるのでしょうか。

「場所の好み」で測る、言葉なき感情のバロメーター

動物が何を感じているのかを知ることは、科学における長年の課題です。言葉を持たない存在の「主観」を、どのようにして客観的に測定するのか。この問題に対して、ブリストル大学のチームが採用したのが、「条件付け場所嗜好性(Conditioned Place Preference: CPP)」という手法です。

この手法の発想はエレガントです。動物は自分にとって心地よい体験が起きた場所を記憶し、再びそこに戻ろうとする傾向があります。逆に、不快な体験をした場所は避けるようになります。この「選択」を指標にすることで、主観的な感情状態を間接的に推定することができるのです。

実験では、20羽のヒヨコ(Hy-Line W-80)が用意されました。装置は、オレンジ色と青色で区別された2つの部屋と、その中央にあるスタート地点から構成されています。まず初期段階で、それぞれのヒヨコがどちらの色を好むかを確認します。もともとの好みが結果に影響しないようにするためです。

次に行われるのが条件付けです。一方の部屋では、人間がヒヨコを優しくなで、穏やかな声で語りかける「穏やかなハンドリング」が行われます。もう一方の部屋では、人間はただ静かに座っているだけで、ヒヨコに対して積極的な接触は行いません。つまり、「接触あり」と「接触なし」という明確な対照条件が設定されているのです。

このセッションは12日間にわたって繰り返されます。そして最終的に、ヒヨコを中央に放し、どちらの部屋で長く過ごすかを観察します。ここで重要なのは、ヒヨコ自身の「選択」です。強制ではなく、自発的な行動としてどちらを選ぶかが、感情の指標となります。

この記事は無料で続きを読めます

続きは、1212文字あります。
  • データが語る「ヒヨコの選択」と「リラックスのサイン」
  • アニマルウェルフェアのパラダイムシフト?

すでに登録された方はこちら

読者限定
新型コロナ「セミ(蝉)型」は科学用語ではない——Cicada変異株の正...
読者限定
空中に漂う遺伝子情報を捉える:環境DNA(eDNA)は監視カメラを超え...
誰でも
「人工太陽」が現実になる日のバイオ:核融合エネルギーをどうする?✉️8...
読者限定
フォトバイオモジュレーション:赤い光療法は科学的か?✉️86✉️
読者限定
金のなる木とバイオマイニング✉️85✉️
読者限定
オジギソウは「数」を数えることができる?✉️84✉️
読者限定
ドパミン神話の終焉—脳科学が直面する「快楽物質」の真実✉️83✉️
読者限定
マイナス55度でも死なない「凍結の覇者」:キタサンショウウオが書き換え...