「筋肉ならホエイ、健康ならソイ」はもう古い?✉️141✉️
今回は、ホエイとソイがそもそも科学的に何なのか、それぞれにどんな特徴があるのかを、最新の研究結果をまじえながら解説します。

そもそも「ホエイ」とは何か
ホエイ(英: whey、英語ではウエイ)は、日本語で「乳清」と呼ばれる、牛乳由来のタンパク質です。身近な例でいうと、ヨーグルトのふたを開けたときに表面にたまっている、あの薄い黄色の透明な液体がホエイです。
牛乳に含まれるタンパク質は、大きく「カゼイン」と「ホエイ」の二つに分かれます。チーズを作るとき、牛乳を固めて取り出される部分がカゼイン caseinで、固まらずに残った液体がホエイです。かつてはチーズ作りの副産物として扱われていましたが、栄養価の高さが注目され、今ではプロテイン市場の主役になりました。ホエイに含まれる主なタンパク質は、β-ラクトグロブリン β-lactoglobulin(約50%)とα-ラクトアルブミン β-lactoalbumin(約20〜25%)です。
市販のホエイプロテインには、製法によっていくつかの種類があります。比較的シンプルに濃縮した「WPC(ホエイプロテイン・コンセントレート)」は、味がよく価格も手ごろですが、乳糖や脂肪が少し残っています。さらに精製してタンパク質の純度を高めたのが「WPI(ホエイプロテイン・アイソレート)」で、乳糖がほとんど含まれないため、牛乳を飲むとお腹がゴロゴロしやすい人にも比較的向いています。また、あらかじめタンパク質を細かく分解して吸収しやすくした「WPH(ホエイプロテイン・ハイドロライセート)」というタイプもあります。
そもそも「ソイ」とは何か
ソイは、大豆から取り出した植物性のタンパク質です。豆腐や豆乳、納豆など、日本人にとってはなじみ深い食材がもとになっています。大豆は畑の肉と呼ばれるほどタンパク質が豊富で、植物性でありながら、体に必要なアミノ酸をバランスよく含んでいるのが特徴です。
大豆のタンパク質は、主にグリシニン glycinin(約40〜60%)とβ-コングリシニン β-conglycinin(約20〜40%)という二つの成分でできています。この二つの比率は大豆の品種によって異なり、後ほど説明するように、この比率が健康への効果を左右する可能性があることがわかってきました。
ソイプロテインにも、タンパク質を濃縮した「SPC(ソイプロテイン・コンセントレート)」や、さらに純度を高めた「SPI(ソイプロテイン・アイソレート)」などの種類があります。動物性の原料を使わないため、ヴィーガンの方や、乳製品が体に合わない方の選択肢にもなっています。
タンパク質の「質」はどう測るのか
ホエイとソイを比べる前に、タンパク質の「質」をどうやって評価するのかを簡単に押さえておきましょう。
長年使われてきたのはPDCAASという指標です。これは、そのタンパク質がどれだけ必須アミノ酸をバランスよく含み、どれだけ消化されるかを点数化したものです。ただ、この指標には満点が1.00で頭打ちになるという弱点がありました。優秀なタンパク質同士だと、どちらも満点で差がつかなかったのです。
そこで近年、国連食糧農業機関(FAO)が推奨しているのがDIAASという新しい指標です。小腸の終わりの時点で実際にどれだけアミノ酸が吸収されたかを、アミノ酸ごとに細かく測るため、より実態に近い評価ができます。点数の上限もなくなり、ホエイのように特にすぐれたタンパク質は1.00を超える点数で評価されるようになりました。この指標で見ると、ホエイは非常に高いスコアを示し、ソイも植物性としては優秀ながら、ホエイにはやや及ばないというのが一般的な位置づけです。
最大の違いは吸収スピード
ホエイとソイの違いを理解するうえで、いちばん大事なのが「吸収のスピード」です。
ホエイは「速いタンパク質」と呼ばれます。胃の中で固まらずにすぐ腸へ送られ、急速に分解・吸収されるため、飲んでから1〜2時間ほどで血液中のアミノ酸の量が一気に高まります。
一方のソイは、ホエイと比べると胃にとどまる時間が長く、ゆっくりと消化・吸収される「中くらいの速さのタンパク質」です。血液中のアミノ酸はなだらかに、長めに上がっていきます。
この違いが筋肉づくりにどう関わるのでしょうか。カギを握るのがアミノ酸のロイシンです。筋肉の中には、筋肉を作る作業を始めるためのスイッチのような仕組み(mTORC1)があり、ロイシンの濃度が一定ラインを超えると、このスイッチが入りやすくなると考えられています。
ホエイはこのロイシンを豊富に含み、しかも吸収が速いため、スイッチを素早く強く押すことができます。実際、カナダのマックマスター大学の研究(2009)では、筋トレ直後にホエイを飲んだ場合、ソイやカゼインを飲んだ場合よりも、数時間以内の筋肉の合成量が高くなることが示されました。この結果が「筋肉ならホエイ」というイメージを支えてきたわけです。
長期戦では差がなくなる?
しかし、ここで問いが生まれます。「飲んだ直後の数時間」で差があったとして、それが数カ月続けたときの筋肉の量にも同じように表れるのか、という点です。
コネチカット大学の研究(2013)では、9カ月間の筋トレでホエイを飲んだグループのほうが、ソイのグループより除脂肪体重(脂肪以外の体重、主に筋肉)が多く増えたと報告されており、ホエイ優位説を支持してきました。
ところが、これに一石を投じたのが、米国オーバーン大学の研究(2017)です。運動習慣のない若い男性75人に12週間の筋トレをしてもらい、ホエイ、ソイ、ロイシン単体、そして効果のないプラセボを飲むグループに分けて比較しました。この研究の工夫は、プラセボ以外のすべてのグループで、1回あたりのロイシン量を約3グラムにそろえた点です。ソイはホエイよりロイシンの割合が少ないため、ソイのグループはタンパク質を多めに飲む設計になっています。
結果は意外なものでした。全員の筋肉量は平均で約2.2キロ増えましたが、グループ間の差は見られず、なんとプラセボのグループとさえ差がありませんでした。筋力の伸びも同様でした。
理由として考えられるのが、普段の食事です。参加者の食事を調べたところ、筋トレを始めてから全員が自然と食べる量を増やしており、プラセボのグループでも、普段の食事だけで体重1キロあたり1日1.3グラム以上のタンパク質をとっていました。つまり、食事でタンパク質が十分に足りていれば、上乗せするプロテインの種類による差は、少なくとも12週間程度では表れにくいということです。
さらに、米国ポイント・ローマ・ナザレン大学の研究(2020)では、男性だけでなく女性も含めて、ロイシン量をそろえたホエイ(19グラム)とソイ(26グラム)を12週間比べました。ここでも、筋肉量や筋力の伸びに、男女ともはっきりした差は見られませんでした。
ただし、ホエイに見どころがなかったわけではありません。先のオーバーン大学の研究(2017)では、筋肉の組織を顕微鏡で調べたところ、ホエイのグループでだけ筋サテライト細胞が明確に増えていました。これは筋肉の修理や成長を担う、いわば「筋肉の予備部隊」のような細胞です。ソイのグループも増える傾向はありましたが、はっきりした差には至りませんでした。12週間の体重計や筋力測定では見えないものの、長い目で見た回復力や成長の伸びしろという点で、ホエイに強みがある可能性があります。
腹持ちと食欲の違い
筋肉以外の観点として、食欲への影響も気になるところです。タンパク質を食べると、腸から「CCK」「GLP-1」「PYY」といった、食欲を抑えるホルモンが分泌されることが知られています。GLP-1は、近年話題の肥満治療薬の働きにも関わるホルモンです。
一般に、吸収の速いホエイは、これらのホルモンを素早く出して短時間でしっかり満腹感をもたらし、ゆっくり吸収されるソイは、満腹感を穏やかに長く保つ傾向があると考えられています。ただし、この分野は研究ごとに結果のばらつきもあり、午後の集中力が確実に上がるといった効果まで言い切れる段階ではありません。腹持ちのよさを重視するならソイ、運動前後に素早く補給したいならホエイ、という程度の目安として捉えるのが現実的です。
ソイの真骨頂は「コレステロールと肝臓」
ソイがホエイにはない独自の強みを見せるのが、コレステロールや脂肪肝といった生活習慣病の分野です。
イリノイ大学の研究チーム(2022)は、グリシニンとβ-コングリシニンの比率が異なる19品種の大豆を、ヒトの消化をまねた装置で消化させ、そこから生まれた小さなタンパク質の断片(ペプチド)を、肝臓の細胞に与えるin vitroの実験を行いました。
すると、これらのペプチドは、コレステロールを作る酵素の働きを抑えたり、血液中の脂質を悪化させる「ANGPTL3」というタンパク質の分泌を41〜81%減らしたりしました。さらに、悪玉と呼ばれるLDLコレステロールを肝臓の細胞が取り込む力を高め、細胞にたまる脂肪を50〜70%減らすという結果も出ています。特に、β-コングリシニンの比率が高い品種ほど、こうした効果が大きい傾向がありました。比較に使ったコレステロールの薬(シンバスタチン)と並べても、脂肪の蓄積を抑える効果は近い水準だったといいます。
ここで一つ注意したいのは、これはあくまで試験管の中、つまり細胞を使った実験の結果だという点です。酵素を抑える力そのものは薬より弱く、ヒトが大豆プロテインを飲んで薬と同じ効果が得られると証明されたわけではありません。
ビジネスの世界でも動きが加速
こうした研究は、食品業界にも新しい流れを生んでいます。たとえば、β-コングリシニンを多く含む大豆品種を選んで育て、健康機能を売りにした製品を作る動きです。また、ホエイの「速さ」とソイの「持続力」を組み合わせたブレンドプロテインの開発も進んでいます。
さらに注目されているのが「精密発酵」という合成生物学の技術です。これは、微生物にホエイと同じタンパク質を作らせる方法で、牛を飼わずにホエイを生産できるため、環境への負荷を大きく減らせると期待されています。ただし、製造コストがまだ高いことや、安全性の審査を通過する必要があることなど、普及に向けた課題も残っています。






