「意識が消える」とは、本当に脳が止まることなのか✉️97✉️

「意識がなくなる」と聞くと、多くの人は「脳の活動そのものが止まる」とイメージします。特に全身麻酔は、その代表例のように考えられてきました。手術中の患者は、痛みも恐怖も感じず、時間の感覚も失います。まるで脳が完全にオフになったように見えるからです。しかし最近、Nature誌 に掲載された研究によって、そのイメージが少し変わるかもしれないことが分かってきました。
山形方人 2026.05.14
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5月6日付けで発表された研究のなかで、ベイラー大学などの研究チームは、麻酔で意識を失っている人の脳を詳しく調べたところ、「海馬」という記憶に関係する部分が、想像以上に活発に働いていたと報告しています。

しかも、その活動は単なる反射ではありませんでした。脳は音のパターンを覚えたり、言葉のルールを区別したり、さらには「次に来る言葉」を予測している可能性まで示されたのです。

つまり今回の研究は、「意識がない=脳が何もしていない」という従来の考え方に、大きな問いを投げかけています。

麻酔で「切れる」のは、脳そのものではなく“つながり”

これまで、全身麻酔とは「脳全体のネットワークが切り離された状態」だと考えられてきました。

脳は本来、多くの領域が連携しながら働いています。オーケストラで言えば、それぞれの楽器が互いに呼応しながら、一つの音楽を作り出しているような状態です。しかし麻酔がかかると、その連携が崩れます。その結果、脳全体としてまとまった「意識」が作れなくなると考えられてきました。

ただし今回の研究では、「Neuropixels(ニューロピクセル)」という非常に高性能な装置が使われました。これは、従来の脳波測定よりもはるかに細かく、個々の神経細胞の動きを観察できる技術です。

研究チームは、てんかんの手術を受ける患者7人の協力を得て、この装置を海馬に入れ、麻酔中の脳活動を調べました。

すると、これまで想像されていた「静かな脳」とは、まったく異なる姿が見えてきたのです。

意識がなくても、脳は「学習」していた

研究者たちはまず、単調な電子音の中に、ときどき違う音を混ぜる実験を行いました。すると海馬は、「いつもと違う音」にだんだん敏感に反応するようになったのです。

さらに同じ刺激を繰り返すうちに、脳は音のパターンを学習しているようにも見えました。これは「神経可塑性」と呼ばれる現象で、脳が経験に合わせて変化する能力を意味します。

驚くべきことに、このような“学習に近い現象”が、本人に意識がない状態でも起きていた可能性があるのです。つまり脳は、意識を失っていても、外界からの情報を受け取り、自分を変化させ続けていたのかもしれません。

麻酔中の脳は、言葉の「文法」まで見分けていた

さらに研究チームは、麻酔中の患者にポッドキャスト音声を聞かせました。すると海馬は、ただ音を聞いているだけではありませんでした。

脳は、「これは名詞っぽい」「これは動詞っぽい」といったように、言葉の役割の違いに反応していたのです。つまり、脳は意識がない状態でも、言葉の構造をある程度分析していた可能性があります。

もっと興味深いのは、脳が「次に来る単語」を予測していたように見えたことです。

私たちは普段、会話の中で無意識に次の言葉を予想しています。だから会話をスムーズに理解できます。今回の研究は、そのような「予測」が、意識を失った状態でも部分的に行われているかもしれないことを示しています。

「考えること」と「意識」は同じではないのかもしれない

これは、人間の知性についての考え方を大きく変える可能性があります。

これまで私たちは、「考えること」と「意識」はほぼ同じだと思ってきました。しかし実際には、私たちが気づいていないところで、脳の一部が高度な情報処理を続けている可能性があります。

ある意味で、この仕組みは生成AIにも少し似ています。生成AIは、自分自身の意識を持っているわけではありません。しかし、文章の流れを学習し、「次に来そうな単語」を予測しながら会話をしています。

今回の研究は、人間の脳にも、意識とは別に動く「予測エンジン」のような仕組みが存在しているかもしれないことを示しているのです。

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続きは、934文字あります。
  • 昏睡、植物状態、そして「脳死」をどう考えるのか
  • 人間の脳は、私たちが思う以上に“動き続けている”

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