マダニ咬傷による肉アレルギー✉️121✉️
赤身肉を食べると発疹が出る症状に悩まされる症例は特殊な症例ではなく、現在世界中で毎年数万人規模で新しく診断されている「α-Gal(アルファ・ギャル)症候群、α-Galアレルギー」(Alpha-gal Syndrome、AGS)と呼ばれる生命を脅かす免疫疾患です。さらに深刻なことに、この病気は地球規模の気候変動や生態系の変化に伴って、急激な増加傾向を見せています。
今回は、マダニに咬まれるとおこる危険なことの第2弾として、このα-Galアレルギーについて説明します。

マダニの唾液が引き起こす免疫の暴走とそのメカニズム
α-Galアレルギーの引き金となるのは、非哺乳類の人間を除く多くの哺乳類の細胞に含まれる「ガラクトース-α-1,3-ガラクトース(通称α-Gal)」という糖鎖を含む分子です。ヒトが自然界でマダニに複数回(通常は2回以上)咬まれると、マダニの唾液に含まれるこのα-Gal分子が血管内へと侵入します。
通常、ヒトの免疫システムは外来の病原体を排除するために機能しますが、血液中に直接侵入したα-Galに対して過敏に反応し、特異的な免疫グロブリンE(IgE)抗体を大量に産生するようになります。これが一度完了すると、体はα-Galを排除すべき危険な敵として記憶してしまいます。
問題は、このα-Galが牛肉、豚肉、羊肉などの赤身肉や、牛乳・チーズなどの乳製品に広く含まれている点です。マダニに咬まれた人が後に肉や乳製品を口にすると、体内で抗原抗体反応が跳ね上がり、深刻なアレルギー症状を引き起こします。一部の患者では生命を脅かすアナフィラキシーショックに発展することもあります。
なぜ症状は数時間後に遅れてやってくるのか
一般的な食物アレルギー(例えば卵やソバ、エビなど)は、食品を口にしてから数分、あるいは長くて2時間以内に急速に症状が現れます。そのため、患者も医師も原因となった食べ物を比較的容易に特定できます。
しかし、α-Galアレルギーは根本的に異なる特徴を持っています。肉を食べてから発疹や腹痛などの症状が出るまでに、実に3時間から8時間という長いタイムラグが存在するのです。
ヒトがステーキなどの肉を食べた際、α-Galはタンパク質ではなく、哺乳類の細胞を構成する「糖脂質」の一部として消化管に取り込まれます。消化された糖脂質は、まずカイロミクロン、つまり脂質の大きな塊としてリンパ系に入り、食後約1時間ほどで血液循環へと流れていきます。
この段階ではカイロミクロンが巨大すぎるため、血管の外へと出ることができません。しかし、その後の3時間から4時間にかけて、酵素の働きによってカイロミクロンが細かく分解されていきます。これによって小サイズになったα-Gal含有分子がようやく血管をすり抜け、周囲の腸管組織や皮膚組織へと侵入し、そこで待機していた免疫細胞と反応してアレルギーを爆発させるのです。
夜遅くに夕食で焼肉を食べた人が、夜中や明け方に猛烈な腹痛や蕁麻疹で目覚めるという事例が多発する理由は、この複雑な消化・代謝プロセスによるとされます。



