重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスは、日本が起源?✉️6✉️

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、マダニが媒介するウイルス(SFTSV)によって引き起こされる感染症です。この病気の恐ろしいのは、平均して約12%という高い致死率です。マダニが介在するだけでなく、猫から体液を介してヒトに感染することも知られています。最近、その起源が日本であるという研究が発表されました。今回は、このウイルスの生物学とそれにもとづく予防について概説します。
山形方人 2025.09.03
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重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、マダニが媒介するSFTSウイルス(SFTSV)によって引き起こされる、命に関わる可能性のある新興感染症です。2009年に中国で初めて報告されて以来、日本、韓国、ベトナム、台湾といった東アジア諸国でも感染が確認されています。

日本では2013年に初めて患者が確認され、その後、九州・四国・中国地方を中心に報告が相次ぎました。最近は、関東地方や北海道でも確認されています。感染の多くは春から夏にかけて発生しており、これはマダニの活動が活発化する時期と一致しています。屋外活動の多い季節と重なることも、感染リスクを高める要因です。

この病気の恐ろしい点は、その高い致死率です。平均して約12%とされていますが、地域によっては30%を超えることもあり、決して軽視できない脅威となっています。

詳しくは、 厚生労働省が、「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A(第7版 令和6年8月2日作成)」というページを公開しているのでご参考にしてください。

SFTSVは日本が起源?

さて、2025年3月、中国山東省済南市の研究グループが、PLOS Pathogens誌に「Molecular evolution and geographic migration of SFTS virus in Asia(重症熱性血小板減少症候群ウイルス(SFTSV)のアジアにおける分子進化と地理的移動)」という論文を発表しました。

この研究は、これまでのSFTSVに関する分子進化や地理的移動に関する研究が限られており、結論も一致していないという課題を踏まえて、より包括的な分析を行うことを目的としたものです。研究チームは2017年から2023年の間にGenBankに登録されたSFTSV株の完全ゲノム配列を収集し、詳細な解析を行いました。

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続きは、5067文字あります。
  • 重症熱性血小板減少症候群(SFTS):感染から発症までの流れと症状
  • SFTSウイルスの正体 − 複雑な構造と驚異的な変異性
  • 細胞内での増殖サイクル ― 巧妙な乗っ取り戦略
  • SFTSウイルスとマダニの共存 − 生態系の中でのしたたかな生存戦略
  • 感染経路はマダニだけではない
  • 治療法が確立されていない現実

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