食品に「色」は必要か?:合成着色料と健康リスク✉️2✉️
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食品に使われる着色料は、食品添加物として「合成着色料」と「天然着色料」の2つに大きく分けられます。
米国では、「赤色40号」「青色1号」「黄色6号」といった石油由来の合成着色料は、現在、アメリカ食品医薬品局(FDA)の厳格な監視のもとに置かれています。
FDAを率いる厚生長官ロバート・F・ケネディJr.氏は、ワクチンに対する発言などで物議を醸してきた人物ですが、食品着色料についても強い懸念を示し、「食品着色料については考えるまでもない。誰も石油を食べたいとは思わないし、それが健康に悪いことは誰もが知っている」と断言しています。
しかし、本当に私たちはその危険性を「知っている」のでしょうか?
今回は、NPR(米国公共ラジオ)の科学番組Science Fridayで、着色料の毒性を研究してきたカリフォルニア大学マーセド校の公衆衛生学教授Asa Bradman博士のインタビューがありましたので、その模様を中心に再構成して紹介します。
石油由来の鮮やかな誘惑
合成着色料の歴史は、20世紀初頭にまで遡ります。石油製品の派生物として開発されたこれらの化学物質は、食品をより魅力的に、楽しく見せるための「魔法の粉」として迎え入れられました。特に、キャンディーのようなお菓子にカラフルな色合いを加えることで、子どもたちを惹きつける強力な武器となったのです。
もちろん、食品に色をつけるという行為自体は、古くから存在していました。ウコンなどの天然色素が使われ、私たちは自然界にあるカラフルな果物や野菜を食べてきました。しかし、化学の発展とともに、ヒ素のような危険な物質が使われていた時代を経て、石油から驚くほど鮮やかな色を作り出せる技術が確立されたのです。そして、それらはやがて食品への使用が承認されるようになりました。
しかし、1970年代に入ると、この華やかな魔法に疑問符が投げかけられます。
子どもの行動変化と科学的根拠
1970年代、いくつかの初期研究が、合成着色料が子どもの健康、特に行動変化に影響を与える可能性を示唆しました。以来、多くの研究が重ねられ、その質が向上するにつれて、懸念の正当性を示す科学的証拠が蓄積されてきました。
Bradman博士が携わったカリフォルニア州での大規模な調査も、その一つです。州政府の資金援助のもと、環境保健ハザード評価局が合成着色料に関する文献レビューとリスク評価を実施しました。
この調査が明らかにしたのは、合成着色料への曝露が、ADHD(注意欠如・多動症)に似た子どもの行動変化と関連しているという事実です。具体的には、落ち着きのなさ、集中力の欠如など、学習や日常生活を困難にするような行動が挙げられます。
また、英国の大学で行われた研究もしばしば引用されています。
もちろん、これらの研究が、合成着色料がADHDを永続的に引き起こすことを証明しているわけではありません。博士は「あくまで一時的な影響である可能性が高い」と強調します。これらの化学物質は比較的早く体外に排出されるため、まるでアルコールを飲んで酔いが覚めるように、一時的な影響に留まるかもしれないのです。
しかし、ここには重要な注意点があります。特に幼い子どもは、脳が急速に発達しています。鉛や一部の農薬といった神経毒性物質が、この神経発達プロセスに悪影響を及ぼし、長期的な結果をもたらす可能性があるように、合成着色料もまた、子どもの脳と神経行動システムに影響を与えているようです。これが長期的な影響につながる可能性は否定できず、今後の研究課題とされています。
「超加工食品」というエコシステム
ここで重要な疑問が浮かび上がります。着色料そのものの影響なのか、それとも着色料を含む超加工食品の影響なのか。
Bradman博士も、この点は重要な論点だと認めます。
合成着色料を含む食品は、精製された炭水化物や他の食品添加物が多量に含まれる、いわゆる「超加工食品」であることがほとんどです。これらは「本物の食べ物」というよりは、より魅力的に見せたり、特定の味をつけたり、長期保存を可能にしたりするために設計された製品群です。
つまり、合成着色料を使った食品は、「超加工食品」として全体として健康にあまりよくない傾向があります。
脳への影響メカニズムとがんのリスク
それでは、合成着色料はどのようなメカニズムで子どもの脳に影響を与えるのでしょうか。
動物実験では、合成着色料がげっ歯類の活動、記憶、学習能力に影響を与えることが示されています。また、神経細胞間の信号伝達を担う神経伝達物質に変化を引き起こすことや、脳の構造に微細な変化をもたらすことも分かっています。これらの変化が、行動変化の根本にあるメカニズムだと考えられています。
また、懸念されているのは行動変化だけではありません。がんとの関連性も指摘されています。
特に注目されているのは、「食用赤色3号」という着色料です。この着色料は、1990年に化粧品への使用が禁止されました。しかし、食品への使用が禁止されたのは、つい最近のことです。FDAは2025年1月に、ついに赤色3号の食品への使用許可を取り消しました。これは、「食品添加物としてがんを引き起こす物質を使用できない」と定めるデラニー条項に基づいています。
(注)「赤色3号」の話題については、次回のニュースレターで取り上げます。
げっ歯類でがんとの関連が確認されていたにもかかわらず、食品での使用禁止にならなかった理由は、げっ歯類でがんを引き起こすメカニズムが、ヒトにも当てはまるとは限らないという見解があるからです。
一方で、非常に一般的な着色料である「赤色40号」については、炎症との関連性が示唆されています。体内の長期的な炎症は、がんのリスクと関連しているため、これも懸念材料の一つです。しかし、赤色3号とは異なり、直接的な関連はまだ明らかになっていません。
毎日が実験場:見過ごせないリスクの現実
Bradman博士は、農薬や重金属など、様々な化学物質への曝露を研究しています。その専門家として、彼は合成着色料のリスクをどのように捉えているのでしょうか。
博士は、「子どもたちへの影響が、実質的な臨床研究によって観察されている」という事実に、特別な懸念を抱いていると語ります。通常、子どもを対象とした臨床試験は倫理的な理由から実施できません。しかし、合成着色料はすでに人間が消費することが承認されているため、私たちは無意識のうちに「実験」に参加しているようなものなのです。
「まさに、私たち全員の中で、毎日実験が行われているのです」とBradman博士は言います。
この事実が、科学的なプロトコルに基づいた研究を可能にし、一部の子どもたちに行動の変化が実際に現れていることを示しています。そして、これらの研究は、すべての子どもが同じように影響を受けるわけではなく、一部の子どもがより脆弱である可能性を示唆しています。
選択肢としての代替品と社会の課題
このような状況を踏まえ、ロバート・F・ケネディJr.氏やFDA長官のマーティ・マカリー博士は、食品業界に対し、石油由来の着色料を代替品に置き換えるよう求めています。
このリスクに、親はどれだけ心配すべきなのでしょうか?
Bradman博士は、「考慮すべきことだが、対処は簡単だ」と答えます。Whole Foods(注)のような自然食品店では、合成着色料を含む製品を扱っていません。消費者はすでに選択肢を持っているのです。
(注)Whole Foodsは、米国で全国展開している自然食品の高級スーパーマーケット。ネット通販のAmazon傘下。
もちろん、週末の誕生日パーティーでピンクのカップケーキを一つ食べるような「エピソード的な曝露」は、それほど心配する必要はないでしょう。しかし、朝食のシリアルや毎日の飲み物で、常に人工着色料を摂取するような「慢性的な曝露」には、より注意を払うべきです。
Bradman博士は、自身の経験から、「子どもがパーティーに行くときは楽しませてあげて、あれを食べるな、これを食べるなとは言いませんでした」と語ります。しかし、同時に、食品業界がFDAの提言を真摯に受け止め、製品を改善する時期に来ているとも指摘しています。
この問題には、社会の公平性という側面も潜んでいます。合成着色料を含む食品の多くは、安価であることがほとんどです。そのため、リスクの負担は、社会的に弱い立場の人々に不平等にのしかかることになります。
自然な色への回帰は可能か?
FDAは最近、園芸植物のクチナシの実から抽出した新しい青色着色料を承認しました。これにより、スポーツドリンクや炭酸を含まない飲料、キャンディーなどでの使用が認められています。これは、この2ヶ月間で承認された4番目の天然由来の着色料です。
天然由来だからといって、必ずしも安全であるとは限りませんが、クチナシやビーツ、ニンジンなど、私たちが古くから食べてきた植物由来の着色料は、安全性が高いと考えられています。もちろん、承認プロセスとその後も継続的な評価が必要です。
では、消費者は、人工的なネオンカラーではなく、より「アーストーン」な自然な色合いの食品を愛せるようになるのでしょうか?
Bradman博士は「イエス」と答えます。確かに、天然の色は合成着色料ほど鮮やかではないかもしれません。しかし、食品業界での経験から、彼は「人々が愛し、楽しめる製品は作られ続けるだろう」と信じています。色は食品を楽しくしますが、必須のものではありません。しかし、それでも、明るい色やそれに伴う楽しみは、今後も失われることはないだろうと、Bradman博士は展望しています。
合成着色料は、食品をより魅力的に見せるための技術的な進歩でした。しかし、その裏に隠された健康リスクは、見過ごすことのできないものです。消費者の選択、企業の責任、そして政府の規制。これらが三位一体となって、より安全で、より健康的な食品エコシステムを築いていくことが求められています。
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