「ワクチン効果の黒子」アルミニウム、安全性を巡る終わらない議論の深層✉️50✉️
今日、人々を感染症から守っているワクチン。その効果を最大限に引き出し、持続的な免疫を獲得させるために、なくてはならない「縁の下の力持ち」が存在します。それがアジュバントと呼ばれる添加物です。
アジュバントは、日本語で「免疫賦活剤」「抗原性補強剤」と訳される通り、免疫応答を増強させるための化合物です。ジフテリア、破傷風、B型肝炎など、多くの小児用ワクチンに少量添加されており、その使用の歴史は1世紀以上に及びます。
このアジュバントの中でも、特に広く使われているのがアルミニウム(アルミニウム塩)です。アルミニウムは注射部位でごく軽度の炎症を引き起こし、免疫細胞が必要な場所に集まり、長く留まるのを促すとされています。数十年にわたる使用実績と、規制当局による厳格な審査を経て、アルミニウムアジュバントの「ベネフィット(便益)は潜在的なリスクを明確に上回るとされています。
RFK Jr.氏が煽る「アルミニウム陰謀論」の波紋
しかし、この長年にわたり安全性が確立されてきたアルミニウムアジュバントが、今、米国で議論の的となっています。発端は、米国の厚生長官に任命されたロバート・F・ケネディ・ジュニア(RFK Jr.)氏が、かねてよりワクチン反対キャンペーンを展開し、「アルミニウムアジュバントが自閉症や食物アレルギーに関連している」と主張していることです。
この主張に対し、科学界は明確なデータで反論しています。2023年7月、デンマークの研究者らが、1997年から2018年までに生まれた120万人以上の子どもたちを対象とした大規模なコホート研究の結果があります。この研究は、早期小児期にワクチン接種で曝露したアルミニウムの累積量が、自己免疫疾患、アトピー・アレルギー性疾患、神経発達障害のリスク増加とは関連しないことを示しており、RFK Jr.氏の主張を真っ向から否定するものです。
研究結果は、早期小児期のワクチン接種によるアルミニウム累積曝露量が、評価された50種類の慢性疾患(自己免疫疾患、アトピー・アレルギー性疾患、神経発達障害を含む)のいずれの増加とも関連がないことを示しました。特に、自閉症スペクトラム障害や注意欠陥・多動性障害(ADHD)といった神経発達障害についても、アルミニウム曝露量増加との関連は認められませんでした。
具体的には、生後2年間のワクチン接種によるアルミニウム曝露量が1mg増加しても、あらゆる自己免疫疾患のリスク(調整ハザード比:0.98)、あらゆるアトピー・アレルギー性疾患のリスク(0.99)、あらゆる神経発達障害のリスク(0.93)のいずれも、統計的に有意な増加は見られませんでした。この研究の知見は、「アルミニウム吸着ワクチンへの早期小児期曝露と、これらの慢性疾患のリスク増加を裏付ける証拠は見つからなかった」と結論付けています。
政治と科学の衝突、迫られるACIPの判断
にもかかわらず、RFK Jr.氏が選任した米国の予防接種諮問委員会(ACIP)の委員らは、ワクチンのアルミニウム使用について議論を行っています。
しかし、多くの科学者が、もしアルミニウムをワクチンから排除することが義務付けられれば、一部の重要なワクチンは効果を失うことになると警鐘を鳴らしています。