ゲノム編集食品の議論と地方議会議員の科学リテラシー✉️53✉️
全国各地の自治体で「ゲノム編集食品への表示を義務づけることを国に求める意見書」といった趣旨の内容が審議され、採択される場面が相次いでいます。一方で、不採択となるケースもあります。いったい、どのようなあり方が科学的根拠に基づいた判断なのでしょうか。そして、今、必要なのは、何をすることなのでしょうか。
わたしたちの食卓に乗る食品の安全性について議論が起こるのは、健全な民主主義社会において自然なことです。安全性に対して不安が語られること、そして透明性を求める声が上がることは、政策形成にとって重要です。しかし、問題は、議会で議論される内容が科学的な理解に基づいたものになっているかどうかです。現状を見ると、その部分が十分ではなく、一部の市民団体などの一方的な主張だけに基づき、結果として誤解や不正確な前提に基づいた請願や意見書が提出され、それが意見書の審議、採択にまで進んでしまうことがしばしばあります。
この問題を考えるためには、そもそもゲノム編集(SDN1)とは何か、従来の育種技術とどのように違い、どこが同じなのかという点を押さえる必要があります。国内外の科学的合意は「従来育種と本質的にリスクは変わらない」という点で一致しています。論点は、以下のページ、さらにそこからリンクされたページにまとめられています。
にもかかわらず、一部の消費者団体などの影響を受けた市民などから「ゲノム編集食品は危険ではないか」という懸念が地方議会レベルに持ち込まれ、「国に対して表示義務を求めるべきだ」という意見書が提出される状況があるのはなぜでしょうか。
かなり深刻な「ゲノム編集食品」についての理解度
その背景には、科学リテラシーの不足があります。遺伝子やDNA、編集、突然変異といった言葉がメディア上を飛び交う一方で、学術的な理解が十分に共有されないまま議論だけが先行し、必要以上の不安や誤解が増幅されるケースは少なくありません。とりわけ、「ゲノム編集食品」が何を意味するのかが正しく理解されていない状況では、断片的な情報や誤情報が広まり、商品そのものへの偏見を生んだり、さらには陰謀論の温床となったりしています。そしてこのような理解の乏しさのまま「表示」が行われれば、その表示自体がこのような間違った情報と結びついて、多くの人々にとってゲノム編集食品を理解したつもりになる唯一の手がかりとなってしまう危険性があります。
こうした問題意識を裏づけるのが、最近、バイテク情報普及会が実施したアンケート調査の結果です。ゲノム編集食品をめぐる社会的議論の土台となる理解が、依然として十分に築かれていないことが分かります。
ゲノム編集食品については、全体の58.2%が「全く知らない」と回答し、内容まで理解している層はわずか9.1%にとどまった。年代別に見ても「全く知らない」という回答が20代~50代のすべてで過半数を占め、年代に関わらず、ゲノム編集食品についての知識が広く行き渡っていないことが分かった。また、全体の51.2%が「全く知らない」と回答した前回(2021年)の調査結果と比べても、認知度は広がっていない。
深刻な地方議会議員の科学リテラシー
地方自治体の議員は幅広い政策分野を扱わなければなりません。そのすべてに専門的な知識を持つことは当然不可能です。「遺伝子」などの先端的な科学の分野について、正しく理解できる教育背景をもっていない議員も多いと考えられます。それでも、それぞれの議員が、科学的根拠に基づく政策判断を行うためには、最低限の科学リテラシーが必要になります。とりわけ、生命科学や食品安全の分野では、専門性が高く、市民の不安と科学的事実のあいだに大きなギャップが生まれやすいため、議員が正しい情報を取捨選択する能力が求められます。
問題を複雑にしているのは、「遺伝子」や「編集」といったイメージに対して、一般にネガティブな印象が付きまといやすい点です。科学的な危険性とは関係なく、「自然ではない」「操作している」という印象や感情が、リスクの理解を歪めてしまいます。また、科学リテラシーの低いメディア報道が不安をあおる形で論点を提示してしまうと、そのまま議会に持ち込まれ、科学的な背景が理解されないまま、「安全性」「透明性」「情報開示」「予防原則」といったもっともらしい言葉だけが強調され、十分な検討を経ないで意見書が提出されてしまうのです。
国の食品安全委員会や国際的な科学アカデミーの見解など、既存の科学的知見を踏まえれば、従来育種と同様と扱うのが妥当であり、独自の表示義務を課すことは科学的な合理性を欠くのです。日本においても、ゲノム編集作物については、このような見解に基づいて、表示義務はなく、届け出制になっているのです。米国でも同様な扱いです。長年、予防原則に基づき、ゲノム編集作物についても厳しい規制を行ってきたEUでも、2025年12月になって、規制緩和の政治的合意がなされました。この合意では、これまで厳しい規制をしてきたEUも、NGT1という一般的なゲノム編集作物については、一般消費者向けには「表示」は不要としているのです。
広く科学者の意見を聴き地方議会議員の科学リテラシーを高める
日本の政策判断における科学の位置づけそのものが問われている問題でもあります。このような議論は、科学技術に対する不信感が政治領域に入り込みやすいことを示しています。同時に、議員が確かな知識に基づいて判断するためには、専門家コミュニティと議会をつなぐ新たなコミュニケーションの枠組みが必要であるという指摘も浮かび上がらせています。
例えば、自治体議会向けに科学者が定期的に講演を行う制度をつくることや、大学や研究機関と議会の間で平時から意見交換ができるパイプを整えることなどは、比較的実現しやすいものです。また、議員自身が科学技術政策に関心を持ち、継続的に学ぶ場を持つことも必要です。研修プログラムの導入やオンライン講座の活用など、科学リテラシーを高めるための環境整備はまだ十分とはいえません。
とくに、「表示を求める」一部の消費者団体などの説明やそれらの団体の立場に立つ論者の意見だけでなく、そうでない立場の意見、とくに科学者の意見を広くしっかり聴取することが求められます。
科学技術は日々進歩しており、特に生命科学の発展はこれまでの常識を大きく塗り替えるものです。そうした状況において、議員が適切に判断するためには、単に知識を増やすだけでなく、情報の信頼性を評価する力を持つことが欠かせません。「誰が言っているのか」「どのデータに基づいているのか」「国際的にはどう評価されているのか」といった視点は、科学技術政策に携わる議員にとって必須のスキルです。どういう議案の審議をしようとしているのか、十分に理解しないまま、投票してしまうことは避けなければなりません。科学的な知識は、感情にもとづいた投票という多数決で決定するものはなく、正しい知識のもとに判断されるべきです。
自治体レベルでの判断が国の政策に直接影響を与えることは少ないかもしれません。しかし、地方議会は市民に最も近い政治の場であり、地域でどのような議論が行われているかは住民の科学理解にも大きく関わります。もし議会が科学的根拠のとぼしい意見書を採択してしまえば、それは地域全体に誤ったメッセージを送ることにつながります。一方で、科学に基づいた判断が行われれば、それ自体が市民の不安軽減と科学コミュニケーションの向上につながるはずです。
科学的根拠に基づく政策判断を
ゲノム編集食品の表示を求める意見書が不採択となる事例があることは、科学的根拠を大切にしようとする姿勢の表れで、健全な民主主義のあり方といえるものです。しかし、その裏側には、議員の科学リテラシーをさらに高めなければならないという課題もあります。科学が政治から切り離されているわけではなく、むしろ政治が科学を理解することが、市民の生活をより良い方向に導くために不可欠であるという認識が求められます。
これからの社会では、ゲノム編集だけでなく、AI、気候変動、エネルギー、医療など、あらゆる分野で科学的知識が政策判断に不可欠になります。地方自治体の議員が科学を理解し、正しく活用できるようになることは、民主主義の質を高めるうえでも極めて重要です。科学リテラシーの向上は、単なる知識の習得ではありません。誤情報を見抜き、複雑な問題を多角的に評価し、市民に説明責任を果たすための基盤です。
ゲノム編集食品の議論は、その縮図ともいえる問題です。科学に基づいた冷静な判断ができる議会をつくることは、これからの日本社会にとって避けて通れない課題です。そして、その出発点は、議員自身が学び続ける姿勢を持ち、科学技術と真摯に向き合うことにあります。科学と政治の健全な関係を築くための努力が、いままさに求められています。
以下、生成AIを使って収集した情報です。このような意見書に関わった地方議会の議員の方々には、意見書の撤回等を含めた見直しをお願いしたいです。
岐阜県 岐阜県 2019年6月27日 ゲノム編集食品に関する適切な制度の構築を求める意見書
北海道 北広島市 2019年10月2日 すべてのゲノム編集食品の規制と表示を求める意見書
北海道 札幌市 2019年10月28日 ゲノム編集技術応用食品の必要な情報提供等の在り方について検討を求める意見書
東京都 小金井市 2019年11月29日 ゲノム編集技術など遺伝子操作技術の規制と表示を求める意見書
千葉県 鎌ケ谷市 2021年3月15日 ゲノム編集食品の表示義務化を求める意見書
奈良県 奈良県 2021年12月15日 ゲノム編集技術応用食品の表示等を求める意見書
埼玉県 越谷市 2022年3月17日 ゲノム編集食品の表示等を含めた消費者への情報提供のあり方について検討を求める意見書
北海道 札幌市 2023年3月10日 ゲノム編集技術応用食品の食品安全性審査の実施や表示を含めた消費者への情報提供の在り方について改めて検討を求める意見書
埼玉県 三芳町 2023年6月20日 ゲノム編集食品の表示の義務化を求める意見書
福岡県 行橋市 2023年6月22日 ゲノム編集食品に関する適切な表示等を求める意見書
静岡県 静岡県 2023年10月13日 ゲノム編集技術応用食品の表示等を含めた消費者への情報提供の在り方について検討を求める意見書
静岡県 富士市 2024年3月12日 ゲノム編集食品の表示等を含めた消費者への情報提供の在り方について 検討を求める意見書
静岡県 富士宮市 2024年3月18日 ゲノム編集食品の表示を含めた消費者への情報提供の在り方等について検討を求める意見書
千葉県 流山市 2024年3月19日 消費者が安心して食品を選択できるための明確な表示を求める意見書
静岡県 浜松市 2024年3月22日 ゲノム編集技術応用食品に関する情報の消費者への提供を求める意見書
埼玉県 八潮市 2024年6月20日 消費者が安心して食品を選択できるための明確な表示を求める意見書
東京都 小金井市 2024年6月21日 ゲノム編集食品の表示を含めた消費者への情報提供の在り方等について検討を求める意見書
静岡県 焼津市 2024年6月28日 ゲノム編集技術応用食品の表示等を含めた消費者への情報提供の在り方について検討を求める意見書
静岡県 静岡市 2024年7月10日 ゲノム編集技術を応用した食品情報の取扱いに関する意見書
福岡県 苅田町 2024年9月20日 消費者が安心して食品を選択できるための明確な表示を求める意見書
静岡県 吉田町 2024年9月24日 ゲノム編集技術で作られた種苗・農林水産物及びこれを原料とする食品の表示を求める意見書
兵庫県 川西市 2024年9月25日 消費者が安心して食品を選択できるための明確な表示を求める意見書
兵庫県 2024年10月23日 ゲノム編集技術応用食品の表示等について更なる検討を求める意見書
島根県 邑南町 2024年12月13日 ゲノム編集食品の表示の義務化を求める意見書
山口県 長門市 2024年12月19日 ゲノム編集技術など遺伝子操作技術を応用した食品情報の取扱いに関する意見書
東京都 三鷹市 2024年12月20日 ゲノム編集表示の義務化を求める意見書
神奈川県 座間市 2024年12月23日 ゲノム編集食品の表示等についてさらなる検討を求める意見書
静岡県 裾野市 2025年2月17日 ゲノム編集技術応用食品の情報提供の在り方検討を求める意見書
長野県 佐久市 2025年3月12日 ゲノム編集技術応用食品に関する適切な表示等を求める意見書
福岡県 築上町 2025年3月19日 ゲノム編集食品の表示の義務化を求める意見書
福岡県 苅田町 2025年3月25日 ゲノム編集食品に関する適切な表示等を求める意見書
岩手県 岩手県 2025年3月25日 ゲノム編集技術応用食品の取扱いについて表示等を含めた更なる検討を求める意見書
北海道 江別市 2025年6月25日 ゲノム編集技術応用食品の安全性審査の実施や表示を含めた消費者への情報提供の在り方について改めて検討を求める意見書
山梨県 北杜市 2025年9月30日 ゲノム編集食品の表示の義務化を国に求める意見書
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