「最初の動物は何だったのか?」を巡る20年戦争:カイメンか、クシクラゲか?✉️67✉️
進化生物学の世界で、今もっとも熱く、そして長期化している論争のひとつが、「最初の動物は何だったのか」という問いです。これは単なる分類学上の細かな違いではありません。約6億〜8億年前、地球上で初めて「動物」と呼べる存在が生まれたとき、その姿や性質をどう描くかという、生命史の根幹に関わる問題です。
長らく、この問いに対する答えは、ほぼ疑われることなく受け入れられてきました。教科書を開けば、そこにはカイメン、いわゆる海綿動物が「最古の動物」として描かれていました。筋肉も神経も持たず、臓器らしい臓器もない。海水を体内に取り込み、栄養を濾し取るだけの存在。その単純さこそが、「動物の始まり」にふさわしいと考えられてきたのです。
しかし2008年、その常識を根底から揺さぶる研究成果が登場しました。最新のゲノム解析を用いた研究が示したのは、カイメンではなく、クシクラゲ(有櫛動物、ゆうしつどうぶつ)こそが、現存する動物の中で最も早く分岐した系統である可能性でした。虹色に光る櫛状の繊毛を持ち、筋肉と神経を備え、捕食者として振る舞うクシクラゲ。その姿は、「最も原始的な動物」というイメージとは正反対に見えます。
この発表以降、進化生物学の世界は大きく二分されました。カイメンを支持する研究者たちと、クシクラゲを支持する研究者たち。両者の間で、20年近くにわたる論争が続いています。それは時に冷静な学術的議論を超え、「場外乱闘」とも形容されるほどの白熱議論へと発展してきました。
この論争は、生命の樹の最下層、すなわち「根元」をどのように描くのかという問題に直結しています。だからこそ、その影響は広範で、動物の進化像そのものを書き換えかねないのです。今回のレターでは、この論争の結論がどうなっているのか、説明します。

『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』(パブリックドメイン)ゴーギャン

