バイオ燃料を知る:第一世代から第四世代までの挑戦✉️15✉️

一口に「バイオ燃料」といっても第一世代から第四世代まで多様な種類が存在します。それぞれについて概説し、バイオ燃料についての理解を深めます。
山形方人 2025.09.24
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「バイオ燃料」は、生きている植物や微生物などを利用して作られる燃料であり、再生可能エネルギーの一つとして位置づけられています。石油や石炭のようにいずれ枯渇してしまう化石燃料とは違い、繰り返し生産できる「枯渇しない資源」として注目されています。さらに、地球温暖化対策として二酸化炭素の削減が求められる中、燃焼によって排出されるCO2を再び植物が吸収するため、全体としてCO2を増やさない「カーボンニュートラル」という特長もあります。こうした理由から、これまで大量に化石燃料を使ってきた分野で、その代替燃料として利用が進められています。

先日、サトウキビを原料にバイオエタノールを生産する施設を取材し、その取り組みを気候変動対策の先進例として紹介するニュース報道を目にしました。しかし、「バイオ燃料」とひと口にいっても種類は多様で、報道では十分に説明されないことも少なくありません。そのため、どのような内容であっても「環境にやさしい=先進的=良いニュース」といった単純な印象で受け止められ、理解がそこで止まってしまうこともあるでしょう。

そこで今回は、第一世代から第四世代までのバイオ燃料について、それぞれの特徴を順に解説し、深堀りしてみます。「バイオ燃料」という言葉を耳にしたときに、「これはどの種類にあたるのか」「本当に先進的と言えるのか」「課題はどこにあるのか」と考えるきっかけになればと思います。

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第一世代バイオ燃料

第一世代バイオ燃料は、もっとも早期に実用化されたバイオ燃料の形態であり、その中心は「糖質を原料としたエタノール生産」です。

ここでは植物に含まれるデンプン(グルコース(ブドウ糖)が重合)やショ糖(グルコースとフルクトース(果糖)とが結合した二糖)といった炭水化物を取り出し、それを微生物発酵によってエタノールへと変換する技術体系が確立されてきました。

具体的なプロセスは次のように整理できます。まず、原料となるトウモロコシやサトウキビを処理して糖質を得ます。トウモロコシのようなデンプン質作物の場合は、アミラーゼなどの酵素を用いてデンプンをグルコースへと加水分解します。一方、サトウキビの場合は、搾汁によって容易にショ糖が得られるため、工程は比較的単純です。得られた単糖類は酵母(主にSaccharomyces cerevisiae)によって発酵され、最終的にエタノールと二酸化炭素が生成されます。この発酵工程はビールやワインの製造と同じ原理に基づいており、既存の発酵技術をそのまま燃料生産に応用したものといえます。

デンプン/ショ糖 → グルコース・フルクトース → エタノール + 二酸化炭素

この方式の代表的な成功例がブラジルと米国です。ブラジルでは豊富なサトウキビ資源を背景に、大規模なバイオエタノール産業が発展しました。生産コストが比較的低く、また副産物として得られるバガス(搾りかす)を熱源や電力生産に利用できることから、ガソリン代替燃料として広く普及しています。一方、米国ではトウモロコシを主原料とするエタノール生産が進展し、バイオ燃料混合ガソリン(E10: ガソリンに10%のエタノールを混合した燃料)が広く流通しています。これにより石油依存の低減や農業政策の一環としての農産物需要拡大といった効果が期待されてきました。

しかし、第一世代バイオ燃料には深刻な課題も存在します。最大の問題は、燃料生産と食料生産の競合です。トウモロコシやサトウキビは本来、食料や飼料として利用されるべき資源であり、大規模に燃料へ転用することは食料価格の上昇や供給不安を引き起こす可能性があります。特に国際的な穀物市場においては、バイオ燃料需要が増えることで価格変動が激しくなり、途上国の食料安全保障に悪影響を及ぼすとの指摘があります。

さらに、農地拡大による森林伐採や草原の転換は、二酸化炭素排出量の増加や生物多様性の喪失を招きます。こうした間接的土地利用変化(ILUC: Indirect Land Use Change)は、バイオ燃料が「カーボンニュートラルで環境に優しい」という評価に対して疑問を投げかける大きな要因となっています。すなわち、エタノール燃料そのものの燃焼段階では化石燃料よりも二酸化炭素排出が少ないとしても、原料作物の栽培や土地利用転換を含めたライフサイクル全体で見た場合、必ずしも温室効果ガス削減に寄与するとは限らないのです。

このように、第一世代バイオ燃料は再生可能エネルギーの実用化に向けた重要なステップでありながら、同時に「食料と燃料の競合」「環境負荷」という根本的な問題を抱えています。そのため、より持続可能性の高い第二世代、第三世代、そして合成生物学を活用した第四世代の研究へと関心が移行しているのです。

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第二世代バイオ燃料

第二世代バイオ燃料は、第一世代バイオ燃料とは異なり、トウモロコシやサトウキビといった食料作物ではなく、稲わらや麦わら、林地残渣(間伐材)、スイッチグラス、ミスカンサス、ソルガムのような草本系植物、さらには紙ごみや食品廃棄物などの非可食性バイオマスを利用する点に特徴があります。食料との競合を回避できるだけでなく、資源循環性や持続可能性の観点からも有望視されています。

この技術の基盤となるのがセルロースエタノールです。植物細胞壁はセルロース、ヘミセルロース、リグニン(芳香族高分子)が複雑に絡み合った「リグノセルロース複合体」と呼ばれる構造を持ち、高い分解耐性を示すため、直接的な酵素分解は困難です。そのため、セルロースやヘミセルロースを露出させて酵素の作用を可能にするための前処理が不可欠となります。前処理の方法には、蒸気爆砕や粉砕といった物理的手法、酸処理やアルカリ処理といった化学的手法、熱水処理やアンモニアファイバー膨潤(AFEX)といった熱化学的手法がありますが、これらの工程ではフェノール類、有機酸、フルフラールといった阻害物質が副生成し、発酵菌の働きを妨げるという課題も生じます。

糖化の段階では、セルラーゼ群によってセルロースが分解されグルコース(C6糖)が生成され、キシラナーゼ群によってヘミセルロースが分解されキシロース(C5糖)が生成されます。しかし、酵素の生産コストは全体コストの中でも大きな割合を占めており、その削減が研究開発の重要な焦点となっています。発酵段階では、従来用いられてきた酵母Saccharomyces cerevisiaeがグルコースを効率よく代謝できる一方で、キシロースの資化能力に乏しいという制約があります。その克服のために、C5糖を利用できるように遺伝子改変を施した酵母の開発や、Zymomonas mobilisのような細菌の利用、進化工学的アプローチによる菌株改良などが進められており、最終的にはエタノールと二酸化炭素が生成されます。

リグノセルロース(セルロース+ヘミセルロース)⟶前処理⟶グルコース + キシロース⟶発酵⟶エタノール + CO2

第二世代技術の応用として近年特に注目されているのが持続可能航空燃料(SAF: Sustainable Aviation Fuel)です。航空機は高エネルギー密度の液体燃料が不可欠であるため電動化が難しく、脱炭素化においてSAFが果たす役割は非常に大きいとされています。代表的な製造技術としては、使用済み食用油や動植物油脂を水素化してジェット燃料級の炭化水素に変換するHEFA法(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids法)があり、これは既に商業化が進んでいます。さらに、木質系バイオマスをガス化して合成ガスを得てから触媒反応によって液体燃料を合成するFT合成法(Fischer–Tropsch合成法)や、エタノールやブタノールを触媒変換してジェット燃料を得るアルコール・トゥ・ジェット(ATJ)法なども開発されています。特にATJ法はセルロースエタノールとの連携が期待されるプロセスです。

これらの技術によって製造されるSAFは、ライフサイクル全体での二酸化炭素排出量を50〜80%削減できると報告されており、国際航空運送協会(IATA)は2050年のカーボンニュートラル目標の中でSAFを中核に位置付けています。しかし現状では、従来のジェット燃料の2〜5倍のコストがかかること、原料バイオマスの安定的な供給確保の難しさ、さらには森林伐採や土地利用転換による環境影響を含む持続可能性評価といった課題が残されています。

総じて、第二世代バイオ燃料は非可食性バイオマスを活用する持続可能な燃料技術であり、その中心にはリグノセルロースの分解から糖化、発酵を経てエタノールを生産するプロセスがあります。発酵阻害物質やC5糖代謝の制約といった技術的な課題は依然存在していますが、持続可能航空燃料の実現に向けて不可欠な要素技術であり、航空分野の脱炭素化における切り札として期待されています。しかしながら、その実用化をさらに拡大するためには、コスト構造の改善と資源供給体制の確立が不可欠です。

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第三世代バイオ燃料

さらに、第三世代バイオ燃料として微細藻類を利用する研究が進展しています。藻類は光合成により短期間で高い油脂生産能を示し、耕作地との競合を回避できる利点を持っています。加えて、培養系統の選択や遺伝子改変技術の応用によって、油脂含量を人為的に高める取り組みも行われています。しかし、大規模培養、油脂抽出精製、コスト効率の確立といった技術的課題が依然として存在します。

第三世代バイオ燃料の研究では、微細藻類の中でもさまざまな系統が注目されています。まず、緑藻類に属するクロレラ属Chlorellaは小型で増殖速度が速く、二酸化炭素の固定能が高いことから広く研究対象となっています。培養も比較的容易で、食品やサプリメントとしても利用されてきましたが、燃料分野においては炭水化物や油脂を豊富に蓄積する性質が評価されています。また、同じ緑藻類のクロロコッカム属Chlorococcumは、窒素が不足する条件下で特に多くの油脂を蓄積しやすく、バイオディーゼルの有力な原料候補とみなされています。

さらに、珪藻類のナンノクロロプシス属Nannochloropsisは、光合成効率が高く脂質含量が豊富な代表的な藻類であり、エイコサペンタエン酸(EPA)といった高度不飽和脂肪酸を多く含むことから、燃料利用に加えて栄養補助食品や養殖用飼料としても注目を集めています。同じ珪藻類であるフェオダクチラム属Phaeodactylum tricornutumは、遺伝子工学による研究が盛んに行われており、代謝経路を改変することで脂質生産をさらに高める取り組みが進められています。

ラフィド藻類に属するボトリオコッカス属Botryococcus brauniiは、炭化水素を直接分泌するという極めてユニークな性質を持つ藻類です。その生成物は炭化水素油に近く、燃料への変換が容易である一方、増殖速度が遅いため、大規模培養には課題が残されています。

加えて、シアノバクテリアの仲間であるシネココッカス属Synechococcusやシネコシスティス属Synechocystisも研究の対象となっています。これらは光合成細菌に分類され、遺伝子改変によってエタノール、イソブタノール、脂肪酸エステルなどの燃料前駆体を直接生産させる試みが行われています。培養条件や遺伝子回路の最適化によって、燃料合成のための新しいプラットフォームとして発展する可能性を秘めています。

このように、第三世代バイオ燃料に利用される生物にはそれぞれ異なる強みがあります。クロレラやナンノクロロプシスのように増殖が速く油脂を効率よく蓄積する種は商業利用に最も近い存在であり、ボトリオコッカスは炭化水素を直接生成するという希少な特徴を備えています。さらにシアノバクテリアは、遺伝子工学の応用によって燃料を直接合成できる可能性を持ち、今後のバイオ燃料研究の新たな展開を支える重要な候補と位置づけられています。

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続きは、1156文字あります。
  • 第四世代バイオ燃料
  • まとめ

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